社会福祉を学ぶ前に、社会保障の意味を理解しておきましょう。社会福祉や社会保障、社会保険など、似た用語が出てきますので要注意です。
- 社会保障の定義
- 社会保障の分類
- 社会保障の定義の変遷

現在の社会保障の定義
社会保障制度とは、国民の安心や生活の安定を支えるセーフティネットです。全ての国民が、最低限度の生活を保障され、自立し、個人尊厳が維持されることを目指す制度です。
国民の安心と安定のために、日本国憲法第25条の生存権を具体化したのが、社会保障制度です。
社会保障の定義は、時代が進むにつれ、最低限の生活保障という意味合いから、全ての国民の安心と安定を目指すという考え方に変化しています。
①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
社会保障の分類
社会保障は以下の4つからなります。
社会保障は、①社会保険、②社会福祉、③公的扶助、④保健医療・公衆衛生の4つ!
社会保険
社会保険とは、「国民が病気、けが、出産、死亡、老齢、障害、失業など生活の困難をもたらすいろいろな事故(保険事故)に遭遇した場合に一定の給付を行い、その生活の安定を図ることを目的した強制加入の保険制度」です。具体的には以下の通りです。
社会保険は、①医療保険、②介護保険、③年金保険、④雇用保険、⑤労災保険に分けられます。
社会福祉
社会福祉とは、「障害者、母子家庭など社会生活をする上で様々なハンディキャップを負っている国民が、そのハンディキャップを克服して、安心して社会生活を営めるよう、公的な支援を行う制度」です。具体的には以下の通りです。
社会福祉は、①児童福祉、②老人福祉、③障害者福祉、④母子・父子福祉、⑤生活困窮者福祉などです。

公的扶助
公的扶助とは、「生活に困窮する国民に対して、最低限度の生活を保障し、 自立を助けようとする制度」です。日本においては生活保護制度が公的扶助に該当します。
保健医療・公衆衛生
保健医療・公衆衛生とは、「国民が健康に生活できるよう様々な事項についての予防、 衛生のための制度」です。妊婦健診や乳幼児健診などの保健事業や感染予防などの公衆衛生事業が該当します。
社会保障の定義の変遷
1950年の「社会保障制度に関する勧告(50年勧告)」では、第二次世界大戦後という状況もあり、社会保障の主たる対象は貧困に対する公的扶助でした。しかし、「国民の健康の保持増進のための公衆衛生の推進」や「社会福祉行政の拡充」にも触れられています。
その後、高度経済成長期を迎え、国民の所得格差が広がっていきます。一方で、経済成長による財源をもとに、1961年には国民皆年金制度と国民皆保険制度が導入されます。
1950年とは大きく社会保障の現状が変化したことから、1962年に「社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度の推進に関する勧告(62年勧告)」が流布されます。
62年勧告では、所得別に3階層に分け、それぞれに対応した社会保障の必要性が訴えられています。
- 貧困階層:公的扶助
- 低所得階層:社会福祉+社会保険
- 一般所得階層:社会保険
62年勧告から32年後、1995年に「社会保障体制の再構築(勧告) ~安心して暮らせる21世紀の社会をめざして~(95年勧告)」が発表されます。95年勧告では、国民すべてが健やかで安心できる生活を保障することが、社会保障だと述べています。社会保障は救貧措置だけではなく、社会保障は生存権の枠を超えて拡大していくとされています。
50年勧告では「生活保障の責任は国家にある」とされていましたが、95年勧告では「みんなで支えていくもの」とされ社会保障の主体も変化してきています。
戦後すぐの50年勧告では、国の責任で公的扶助を中心とした社会保障が行われました。62年勧告では、所得階層に応じた社会保障の必要性が述べられています。95年勧告では、広く国民に健やかで安心できる生活を保障するために、みんなのために、みんなでつくり、みんなで支えていくものが社会保障であるとしています。
【社会保障制度に関する勧告(50年勧告)】
社会保障制度とは,疾病,負傷,分娩,廃疾,死亡,老齢,失業,多子その他困窮の原因に対し,保険的方法又は直接公の負担において経済保障の途を講じ,生活困窮に陥った者に対しては,国家扶助によって最低限度の生活を保障するとともに,公衆衛生及び社会福祉の向上を図り,もってすべての国民が文化的社会の成員たるに値する生活を営むことができるようにすること
【社会保障制度の総合調整に関する基本方策についての答申及び社会保障制度の推進に関する勧告(62年勧告)】
貧困階層に対する保障の方法は,いうまでもなく主として公的扶助により,いわゆる救貧を目的とするものである。つぎに低所得階層に対する保障は,公的な社会福祉を主軸とし,このほかに各種の社会保険をも適用するが,それには場合に応じて公的負担によってこの階層のひとびとの加入を容易にするように考案する。第三に一般所得階層に対する保障においては,社会保険を中軸とし,これを防貧および生活安定の主な方法とする。
【社会保障体制の再構築(勧告) ~安心して暮らせる21世紀の社会をめざして~(95年勧告)】
社会保障制度の新しい理念とは、広く国民に健やかで安心できる生活を保障することである。社会保障制度は、みんなのためにみんなでつくり、みんなで支えていくものとして、21世紀の社会連帯のあかしとしなければならない。今後、生活水準の上昇に伴い生活保障のあり方が多様化し、そこに社会保障の受け手の側に認めるべき選択権の問題が生じてくる。その選択の幅は生存権の枠を越えて拡大していくであろう。
まとめ
すべての国民の安心と安定のために社会保障制度が存在します。社会保障は、①社会保険、②社会福祉、③公的扶助、④保健医療・公衆衛生の4項目からなります。
社会保障の定義は時代とともに変化し、50年勧告では公的扶助を中心とした社会保障、62年勧告では所得階層に応じた社会保障、95年勧告では、広く国民に健やかで安心できる生活を保障するため社会保障が必要であるとされています。
